高津昌之『信号』裏ライナー
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高津昌之ソロアルバム「信号」の高津さんご自身による裏ライナーです

高津昌之『信号』裏ライナー
裏とはいうものの、CDライナーに書ききれなかったことなどを書き綴っているものです。
たまに[怒]あり(笑)。

ジャケットについて:
表(1面)とリア(裏面)の月の写真は私の撮影によるもの。表写真はもっといい写真があったのですがポセイドンのデザイナーとはどうも意見が合わず、結局あれに押し切られた。幸いそんなに評判が悪くないのでま、いっか。

裏面の写真は一見月の色を細工してあると思われがちですが、見たままの写真で、フィルターなど不使用、加工も一切なし。
9年くらい前、赤い月に遭遇したときに衝撃を受け、いつか撮ってやろうと(その時はクルマを運転中だったし、機材も持ち合わせてなかった)準備を整え、ずーっと狙い続けること5年。やっと撮れたのでした。確か4年前の中秋の名月でした。

それにしても曲名の文字が小さい。うちの親戚は年寄りが多いから誰も読めんぞ。オマケはCDじゃなく天眼鏡を付けるべきだったか。

献辞にある式子内親王は鎌倉時代前期の歌人。Maggieに恋していた1980年当時、図書館にて和歌のアンソロジーに「忘れては うち歎かるる夕べかな 我のみ知りて過ぐる月日を」の一首を発見し、言葉にならないほど強く心を揺さぶられました。さらに「尋ぬべき 道こそなけれ人知れず 心は馴れて 行き返れども」です。まだまだあるのですが。
800年も前の人が、今の私の心のうちをそっくりそのまま、こんなに素晴らしい表現で詩に残していたことに感銘を受けたのです。
以来、式子内親王は私のアイドルとなり、800年前の貴婦人に恋することにもなったのでした(この浮気者!)。

1曲目の「冬のランプ」
随分と周りの評判がいいのでびっくり。私の中では4番目くらいに位置する曲なのですが。 北山君が「25年言い続けてきた」らしいけど聞いた覚えがない。「青い青空」のギターを「高津のベストテイク」と言われたのは覚えているが(笑)。

もしこの曲が本当に北山君や花本君が評価するほどのクオリティを持っているのだとしたら、そんな曲を書けたのは彼らセレナーデのメンバーのお陰でしょう。
ご存じのとおり、セレナーデのメンバーはみな天才的なミュージシャンで、その中にひとり凡人のギタリストが加入したようなものでした。
ま、多少の誇張はあるとはいえ(なんだ!謙遜かよ!!<笑>)、そんな中にいれば「朱に染まれば赤くなる」「ブタもおだてりゃ木に登る」のは当然です。
“今、自分はこのメンバーたちに望まれて日本一のバンドに在籍している。”という自信はなにものにも代えがたいものでしたから。そもそも曲順は野球の打順を組むつもりで考えました。え?10曲あるじゃないかって? ははは(汗)、えーと6と7は合わせて1曲と考えて下さい。この曲はスイッチヒッターで打率もいいので1番に。

この曲でドラムを叩いてくれている藤田秀さん(今は苗字変わって高野秀さん)は実に落ち着いた、気持ちのいいドラミングを聞かせてくれる方で好きでした。ここでは私がダブルボーカルを取ってますが彼の優しさ溢れる声も素晴らしく、私のボーカルとのマッチングは随一だったと思います。

「抱きしめたい」:
これは実質3番バッターですが、3、4と12弦ギターが続くのを避けました。コーラスは3声で、もちろんジョン、ポール、ジョージの3人を意識してます。ポールのリードにジョン、ジョージのバックかな。
人を好きになると心がどんどん浄化されていきますよね。想い続けたらこんな歌が呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!(笑)
これ、珍しく私がベース弾いてます。分かる人は分かる典型的なギタリストのベース弾き。

「悪魔のトリル」:
昨日(5/9)はなぽんから「ところで誤植発見! 歌詞カードの曲名部分が「魔法のトリル」に。かわいー。これでもいいかも。」とのメールもらいガーン!
この曲、伊藤政則氏とのバンドで既に完成してたんですね。英詞を伊藤氏が書いて。ライブでもやってました。当時のタイトルは「ELINA」。メンバーはベースに阿久津徹君、キーボードに松浦佳一君(クエーサー)、ドラムに音楽評論家の山田道成君(これが重いドラムを叩くんだ。日本人では珍しい)とけっこう豪華。

「信号」:
いよっ真打ち! この曲が書けた(これも飛び出た、が正しい)ことでもう死んでもいいと思ってます(ウソ)。いい曲なんだけどボーカルがいまひとつで、本当の良さが伝わらないのが難点。3回録り直したがコンディションが戻らなかった。この曲を超えるものは次作の「三日月の夜」(仮題)だけだな(よく言うね)。特典CD聴いた人は歌詞の微妙な変更点が分かる、というわけですね。

それにしても当時の私は、歌詞の中に出てこない、隠喩のタイトルが好きでした。「ランプ」しかり「ノクターン」しかり「ミルクティー」しかり、この「信号」しかり。あ、「ランプ」は出てくるのか。でも「冬のランプ」としたところがいいでしょ?
12弦の音色、好きだなあ。特にエレクトリックのが。

「クルミの中はミルクティー」:
まず「なんじゃ?この駄タイトル!」と反応される方がいらっしゃるだろうなあ。そういう方はこの曲を評価の対象にしない。でも好きな人は大好き! という賛否が分かれる曲。
それを5番(5曲目)に?? でもこんなテンポのいいのは他にないので気分転換というか箸休めですね。それにしてもあんまりアクティブじゃない私の性質が歌詞によく出てるなあ。せっかく天気のよい日にお出かけというのに、日向ぼっこだの、うたた寝だの(笑)。
この曲の藤田さんのドラミングも秀逸。

「プレリュード:ウィスコンシン州ポートバーグ」〜「フェンへ」:
好きな漫画家はたくさんいるけれど、当時松本零士、あすなひろしと並んで好きだったのが樹村みのりさん。いわゆる少女マンガの絵にはなじめないのだが、この人や倉多江美さん、萩尾望都さんなどはそれっぽさがなく、内容的にも好きだった。
で、樹村みのりさんの「40ー0」。この作品を読み進めていくと、ある場面で涙があふれて止まらなくなってしまいます。けして悲しくてではなく、その感情表現の巧みさ、隠喩に感動してしまって。

当時私は高花北のあいだでは「読み道楽」と呼ばれていて(ほとんどが内外のミステリーなので、大したことはないんですが。
ちなみに北山君は「着道楽」、花本君は…あれ?忘れたっ!)漫画や小説はわりと読んでいたほうでしたが、、感情をコントロールできなくなるようなことはかつてありませんでした。つまり涙なんて流したことのない冷血人間だったのです。

あれ?どんどん話がずれていってるな。樹村みのりさんの作品はわりと重いテーマのものが多いのですが、底を流れているのは人間の血潮、温かさです。
「みんないつかは死んでしまう。けれどそのことに絶望する必要など全くない。生きている間にあなたがみんなから受ける温もりは、そんなことどうでもいいと思えるくらい、小さいものにしてしまうよ」
そんな樹村さんのメッセージが、真摯さと軽いユーモアとをもって、全ての作品を貫いている気がします。

「40ー0」はアメリカの一都市を舞台にした物語で、樹村さんの作品によく登場するタイプの、勝気で、時にシャイで、思慮深い、とても魅力的な女の子が主人公です。この物語に魅了された私は矢も盾もたまらず、曲を書かずにいられなくなったのでした。
そして樹村みのりさんもまた私のアイドルとなり、こんな人と結婚したいー、と切に願う男になってしまったのでした(この浮気者!いやこ頃はまだMaggieと知り合わず)。
「プレリュード」に特徴的に使われている4弦をすべらせるEmのフレーズを発見したときはアルキメデスもかくや、と思えるほど喜び、「フェンへ」にとどまらず、「抱きしめたい」にも使ってしまったのでした。
しかも今回聴いてびっくり! ボーナストラックの「オリュンポス〜」にも使われているではないですか!どうやらこの「オリュンポス〜」が最初のようです。

「ノクターン」:
ジャケットのバンド写真をじっくり見た人は気付いたと思うけど、元のタイトルは「マギーのノクターン」。六部作の2曲目に当たります。想像上の舞台は四国です。
ギターソロはロバート・フリップの影響が見え隠れ。スティーウ゛・ハケットも少し入っている? このソロはフレットが22あるギターじゃないと弾けない。
鈴木達哉君の盛り上げてゆくドラミングもよく、2年間の成果が表れていると思いますね。

「燃え尽きた心に残るものは」:
西原君のベースはもとより、今更ながら小松君の繊細なドラムがいい。
歌っていて「ああ、いい曲だな」と自画自賛してしまう曲です(鼻持ちならないやつですね)。だから私的には隠れ四番打者。オリジナリティという観点からも優秀じゃないかと(まだ言ってる)。この曲が大好き、という方がいらっしゃったらぜひ固い握手をしたいです。

この曲、高津北山小松バンドでのロングバージョンもあるんです。長いギターソロ入りの。
ただベーシスト不在。確か西原君が急遽来れなくなったんじゃなかったかな。いつかこれに後付けでベースとキーボードを入れてもらい、完成させてみたいと夢見ています。

「海にとけこんで」:
どこかの広告に伊藤政則「海にとけこんで」のためのデモ録音とあった気がするが、こちらのほうが後。
第1期高津ソロバンド(with渡部・関根・藤田。もうひとりのギタリストが仲々見つからなかった)での録音です。
花本君にシンセを重ねてもらいました。これと「ランプ」「ミルクティー」はベーストラックを森村君宅の離れスタジオで録音しています。
「抱きしめたい」「トリル」「プレリュード」「フェンへ」「燃え尽きた〜」が福生。重ね録音はいずれも光が丘花本スタジオ。
「信号」「ノクターン」は新録音なのですべてひばりが丘。

この曲でのピアノソロは私の原案によるもので(キングのスタジオで「こんなふうに弾いて」と私が花本君に指示、彼がそれを踏まえて発展させ完成)私的にはかなり気に入っていて、花本君のベストプレイじゃないかと思っているのですが、北山君いわく「あのひどいピアノソロ」!! 花本君いわく「だってあれは高津に指示されて仕方なく」ええー! オレっていったい何???

「夜話」:
北山君はもうどこかへ夜逃げしたらしい(笑)。
なんで彼はこんな曲(この頃はアレンジも含めてひとつの曲と認識していた。プログレですからね)を書いたのか?謎ですがやっぱりプログレは実験性が大事ですからね。 楽しんで書いたのでしょうね。

他のメンバーも「なんだよこれー(笑)」とか言いながらも、リハーサルになると真剣にプレイするのでした。それがセレナーデなのでした。
綺麗なメロディのあとにあのドッテテのフレーズ。いわゆる普通の人たち(私の親戚など)はいったいどう思うのでしょうか…「私の親戚に変人がいてね…」とか言われてる気が…

「オリュンポスの落日」:
この曲を発表したことでセレナーデの評価を一気に下げることに?
私的にはやはりこの曲はダメだと思います。オリジナリティがない。どうしたってこの曲を聴けばイギリスの有名なプログレグループのあの曲とあの曲を連想せずにはいられません。
それでもこの曲を発表したのは、記録性を重視したのと、こんな曲でも皆様のなぐさみになれば、と思ったからにほかなりません。よい点をひとつだけ挙げれば、他のセレナーデ曲にはないギター×2のサウンドが楽しめることでしょうか。どちらのギターも私の構想が100%生かされています。

「回帰」:
本当に不思議なことですが、この曲は私のセレナーデ加入前に書かれていたものなんです。
もちろんギターソロ部分は白紙でしたが。この曲の譜面を渡され、みんなでリハーサルしはじめたときは本当に「まるで私のために書かれた曲のようだ」と身震いしたのを覚えています。

それくらい、この曲のもつ雰囲気、テンポ、コード進行の美しい流れは、私のギタースタイルに合致したものでした。それも私が模索していた未来の。

そんな、私にとって理想の、いやそれ以上のグループが崩壊することになったのですから、私の落胆の度合いがいかばかりだったか、想像していただけると思います。
そして時は過ぎ……1曲目の「冬のランプ」へと続いてゆくことになるのです。(完)

(16 /may/2009)



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