※すべての著作権は北山真、新月にあり無断転載を禁じます

HOME
BACK
SNOWレーベル作品発売記念特別寄稿

「SNOW時代」 北山真

 新月解散後、私は自主レーベルとしてSNOWを立ち上げました 。レーベルとはいってもカセットなのでほとんど資金と言うも のはいらなかったような気がします。カセットケースに封をす るために造った小さなシ−ルが一番コストがかかった記憶があ ります。

 動物界之智嚢はソロアルバムの飾り用のインストルメンタル (フォックストロットのホライズンとか、アイランズのプレリュー ドような)としてなんとなく録音しているうちに、似たような 雰囲気の曲が3,4曲溜まってしまい、‥‥飾り用にはこんな にいらないし、こーなったら全編これで通してやれ。という決 断で出来上がりました。

 録音は1981年12月〜1982年2月となっています。このとき厳 密に新月がすでに解散していたかどうかはいささか疑問です。
高橋/鈴木が辞めた時が解散とすれば、それはとっくでしたが 、新しいドラマー、ベーシストを入れて試行錯誤していた時期 (まる1年ぐらい?)だとしたら、まだ新月はかろうじて続い ていたのかもしれません。池袋西口で花本と珍しく二人で飲ん で、どちらからともなく「もう終わりかな」「 終わりにするか」と言ったのが実質解散宣言だったと私は記憶 しています。ただそれはいつだったのか‥‥。

 その後私は、一度ポップスに専念してみようという気持ちも あり、5曲入りのデモテープを作りました。いちおう数少ない 「つて」でレコード会社や音楽出版社の人間にそれを渡したと 思うのですが、せいぜい5本ぐらいだったのかもしれません。
もっぱら回りの人間に配って「けっこう良く出来てるでしょ? 」とか言って喜んでいたような気がします。それ以上の展開は ありませんでした。今回そのうちの2曲がボー ナストラックとして「動物‥」に入っています。

 そうこうしているうちに、せっかく自分のレーベルがあるの だから、傑作といわれるようなものを造ろうということで、文 学バンドのアイディアが出てきました。このあたりでなぜ本気 のソロアルバムを造ろうとしなかったのかは歯がゆいところで 、タイムマシンがあったらこのころの自分に「なぜまわり道を するのか」と叱咤できるのにと思います。やはり「新月」とい う重い看板を背負っていましたから、それに あまりかけ離れたこと(内容も、品質も、ジャンルも)をやっ てはいけないという自己規制があったのでしょう。だから「文 学バンド」というものを利用してとりあえず、自分の作品を発 表してみようという姑息な手段だったとも今は自己分析できま す。

 思えばこのころ、日本中に少ないながらも確実にいた熱狂的 新月ファンの声が聞けていたら、その後私も音楽からはなれる ことはなかったのかもしれません。私がカムバックし1999年に 発表した「光るさざなみ」のアンケートハガキの中には「また 北山さんの声が聞けるなんて夢のようです」「この時を待って いました。生きていて良かった」なんてのがありました。マー キーの事務所で涙をこらえたものです。

 あの頃「新月」を発表したあとその反応のにぶさに、メンバ ーはみんな「これだけのものを創ったのになぜ」という焦燥感 をいだいていたことでしょう。「きっと全国には分かってくれ ている人が居る」とは思っても、その生の声を聞くと聞かない とでは大いに違うのが人間と言うものでしょう。
 そんなあの頃、モヤモヤのはけ口として(?)文学バンドは 創られました。これはもちろんそんなバンドが存在する訳でな く、録音のためのものです。劇団インカ帝国の文学好きの二人 が、飲みながら熱く語っているのを傍らで眺めていた私が思い ついたものに、気乗りのしない花本を無理に引っ張り込んだと いった所です。

 花本が二の足を踏んでいたのは私のプロデュースで「文学バ ンド」といえばどういったものか、おおよそ想像がついたから でしょう。私はセレナーデ時代から多少アバンギャルド的な要 素も曲に取り入れていたのですが、花本はそういう「どろどろ したもの」とは無縁でした。このあたりが私と花本の決定的な 違いと言えるでしょう。私は今でも本気で酔っ払ったときはド アーズを聞いたりしますが、たぶん花本はメアリー・ホプキン を聞くのでしょう(そもそも本気で酔っ払わないか)。

 話がそれましたが、文学バンドの中でも特に「わが解体」は 、私も花本もそうとうに入れ込んで創った作品です。これだけ 本当の意味での共作が成立したのはめったにないことでしょう 。花本がピアノの前に座り、隣に私がギターを持って立ち、私 が勝手にコードを変えていくと即座にそれに花本のメロディが ついてくる、あるいはそれが逆転しといった感じで2,3時間で 骨格は出来上がったと思います。時任顕示の長 ゼリは今でもまったく色あせることなく、聞くたびに鳥肌が立 ちます。SNOWの指針であった“三ア”アナログ、アナクロ、ア ングラ、ここにきわまっています。

 後半のギターバトルは高津さん、津田、北山の3人で、どの フレーズが誰のものか? これは比較的当てやすいですが(特 に私は)、実は曲全体のどこかで花本もギターで参加していま す。決して隠し味のようなものではありません。
 これをクイズにして筆を置きます。 

PS「光るさざなみ」に続くセカンドを作業中ですが、こんど は打ち込み中に、やはり変なインストルメント曲が次々と出来 てしまっています。これをまとめて動物界之智嚢PART2にしよ うかとも思っていますが‥‥(やめとけって?)。 



HOME
BACK
※著作権は北山真、新月にあり無断転載を禁じます