※すべての著作権は筆者、新月にあり無断転載を禁じます

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高田馬場BIG・BOX (1979年12月14日) 

山ア 尚洋 (マーキー):

 新月を観たのは、後にも先にもこのイヴェントでだけである 。
 新月がアルバム・デビューする以前、日本のプログレッシブ ・ロック・グループとしてレコード・デビューして、70年代 後半まで活動を続けていたのは四人囃子とファー・イースト・ ファミリー・バンドくらいであった。マンドレイク、クェーサ ー、グランギニョル他、東京を拠点にしてライブ・ハウスを中 心に活動を続けていた実力あるアマチュア・バンドはいたけれ ど、インディー・レーベルすらもないこの時期、これらのグル ープ達はなかなかメジャー・デビューする機会はなかった。だ から、新月がビクターを通じてメジャー・デビューしたという ことは、少なからず歴史的な意味があった。

 このライヴは美狂乱と新月のカップリングであり、会場こそ それほど大きくなかったが、新しい波の中で、日本の頂点に立 つ2つのバンドのパフォーマンスを観る事ができたことは個人 的にも大きな収穫であった。
 確か、アルバム・デビュー直後のライヴだったはずで、会場 は緊張した空気で張り詰めていた。美狂乱もドラマーの佐藤が 在籍していた時のもので、その壮絶なライヴも素晴らしかった 。新月もジェネシスばりのステージング・アクトで演奏もバラ ンスよく、おそらく円熟期のパフォーマンスだったのではない だろうか。

 新月の魅力。それは大雑把に言ってしまえば、「北山の生み 出す叙情と花本、津田の創り出す緻密な曲構成の妙」というこ とだろうと思う。新月のメンバー達が生み出す歌詞は、幻想的 でありながらもどこか叙景的だ。「鬼」にしても「白唇」にし ても、聴いていく内に各リスナーの脳裏にそれぞれのインスパ イアされた光景が映し出されていく。どこか、感情を排除した ようなこの光景に、人はそれぞれの叙情を重ねていく。そして 、その叙情を生み出す視点は、少年の清らかな「眼」であるこ とに僕達は気付いていく。その清らかさをリスナーに伝える為 に北山の歌声は唯一無比なるものに想える。又、こうして生み 出された光景を音に紡いでいくのが花本のキーボードと津田の ギターである。彼等はあくまで冷静に、北山の生み出す光景を もっとも効果的に表現するための「音」をまさぐり、そして形 にしていく。結果として、ひとつひとつの音は吟味され、無駄 な音は排除され、全ての音は必然という命題にそって集められ 、並べられていく。こうしてできあがった新月の音は、ジェネ シスの影響を受けながらもどこか日本的だ。

 これは皮相的にではなく、音楽のずっとずっと奥深いところ から沸き起こる衝動が日本的であるということだ。それは、北 山の口から歌われる日本の風景でもあり、捨てるということで 必要なものだけを残していく、花本と津田のアレンジに拠ると ころからくるものでもあるのだ。これがジェネシスとの決定的 な差異であると僕は想う。それは、職人が長い年月をかけて到 達する伝統工芸の美ともどこかオーヴァー・ラップしており、 流行とは無縁のもので、このことが新月のアルバムを歴史的な 一枚にする所以であろうと思っている。
 あの時のライヴを観たことは、そういう、歴史的なイヴェン トの空気を共有できたということに於いて、僕にとっては非常 に意味のある体験であった。

(2003.12.24)



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