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クロスのボールペン
August 18 2004 with David Cross at Super Delux Tokyo

 津田 治彦

前編

 まだ、真夏の日射しの18日、私はひょんなことから元キング・クリムゾンのデビッド・クロスとライブをすることになった。

 この一週間くらい前にポセイドンの増田氏から電話があり、やってみないかということだったが、リハもやらずに即興だけで行こうという増田氏の提案には、リハを重ねる主義で通してきた私としては少し躊躇した。
 しかし、チャンスとしてはそう何度もあることではないと思い直し、ライブを受けることにした。
 とは言うものの、実のところそれまでの別の録音作業で疲れ果てていたのと、今年の夏の暑さのために判断力というものが殆ど機能していなかったというところだ。

 当日、ライブを行うスーパー・デラックスに着くと既にクロス氏も来ているようで、私は「ガイジン」を見つけたので声を掛けて本人と確認した。
 ここはミュージシャン同士、あまり国籍は関係ない感じで、すぐハウスのエンジニアと”テクニカルな”概略の打ち合わせを行った。
 とは言うものの、これまた「なかなかいい会場じゃない?」だの「ラインはどうする?」とか「この椅子はどーする?」「音量はでかいの好き?」とか他愛のないものなわけだが。

 デビッド・クロス氏の見てくれは、増田氏に聞いて想像していたよりは老けた感じはせず(彼はけっこう口が悪い?)、髪の毛はさすがに後退しているものの、目の力というものは全く死んでいないタイプで、ドラッグとは無縁の生活をしていた音楽家の雰囲気を醸し出していた。
 これは、私も同じなのでこのような雰囲気はすぐにお互い了解できたと思う。

 やはり、後で聞いたところ「酒もタバコもいらないね」というくらい現在でも求道的とも言える生活をしているようだった。一方、私は酒もタバコも嗜好品の上位に挙げている生活だ。
 その他、面白かったのは六本木ヒルズを見上げて「高所恐怖症なんだ」と言っていたが、「でも、飛行機で来たんでしょ?」と言うと、「あー、窓が開かないくて狭いと平気なんだ」そうだ。

 さて、サウンド・チェックをしようということになり、2人でシンプルなのですぐに回線チェックは終わり、どちらからともなく音を出してみた。
 クロス氏は私と違って絶対音感があるのかもしれず、私がどこから弾いても瞬時にキーを見つけるので、事前のキーの確認は必要がないと判断したが、一応「どのキーが好みですかね」と聞いてみると、「まー、バイオリンの開放弦あたりならなんでもいいね」とのこと。
 どちらにしろ、何をやってもなんとでもなるという感じはリハで確認できたので、少し安心。

 クロス氏は、その後なにやら紙を取り出してゴソゴソやっているが、何かと覗くとエフェクターのパッチと音色のメモだったが、使用していた日本製のエフェクターは比較的新しいもので、どうも覚えきれないということらしかった。
 その後、「デュオのときは何か考えがあるんすか?」と聞いてみると、なにやらまた紙を取り出して見せてくれるのだが、そこには円周形に言葉が並んでいて、一周するとだいたい8つのパートに別れた循環ができるようなキーワードが並んでいた。
 なるほど、一応仕込んであるところがアメリカ人あたりとは違うと思って見ていると、それは「出会い」から「エンライトゥンメント」(啓明とでも訳すのか)に至る循環を即興で表現したいというもののようだった。
 一瞬、この人もロバート・フリップの影響でグルジェフにハマっているのかと思ったが、なかなか興味深いアイデアだし、自分でもだいたい4つくらいのパートを作って1時間を作れば飽きないかとも思っていたので、この時点で同じようなコンセプトを共有できたのでよしとした。
 まあ、日本ではこのようなコンセプトを理解して演奏できるのは私くらいのものだろう(わらい)。

 開演までの楽屋での四方山話で面白いものを幾つか思い出してみる。
 まず、お互いにロックンロールな生活や心情とは無縁だということが分かっていたので、「なんか、あまりフリクションは感じないねえ」と言うと「そうねえ、でもこの手の音じゃ喰えんでしょ」とくるので「私はアレンジやエンジニアリングもやってなんとかだね」と言う。
 で、イギリスじゃいつもはどうしてるのかと聞いてみると「大学で音楽を教えてるんだ。理論というよりは、いかに音楽家になるかというところを教えてる。これはこれで楽しいもんだ。」となんと、プロフェッサーだったのでした。
 「そりゃ、いいじゃない。日本だとなかなかそういう先生はいなさそうだしね。」と言うと「そうかい」とあちらではけっこう当たり前というところもあるらしきニュアンス。

 これから演奏しようという「譜面」を見ながら、いきなり「これってグルジエフだの神秘学だのに影響されてるの?」と聞いてみると・・「いーや、そういうわけじゃない。自分はこのような心の動きにいつも興味を持っていて、常に普通に考えていることの反映なんだ。」と仰る。
 この言い方は私も印象深く、カルト的な「教義」などに振り回される人間とは違うという断固とした響きがあったので、私も深く納得したのでした。

 そろそろ開演時間となり、そそくさとガイジン観光客風の短パンからズボンに履き替えている。
 曰く、「ま、一応長ズボンのほうがタダしいよな。」とのことなので、「ま、多分そうかもね」と言うと「多分、タブン、・・」とニヤニヤ。勿論私は短パンでもいいんじゃないのという意味で言ったのでした。

つづく・・。


「津田治彦&デビッド・クロスライブ」 「津田治彦&デビッド・クロスライブ(特別寄稿)」(POSEIDON)



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