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「新●月プロジェクトvol.1『あの音が聞こえる』

2013年3月23日 吉祥寺CLUBSEATA



☆新●月プロジェクトについて。

新●月は1979年7月25日にアルバム「新月/新●月」を発表し、高い評価を得ながらも、このたった一枚のアルバムを残し解散してしまいます。そこから新月は長い沈黙に入ります。しかし、それから丁度四半世紀経った2004年。奇しくもデビューと同じ7月25日、新月オリジナルメンバーは再会を果たし、新月は再結成しました。

同年9月5日には、1979年のメジャーデビューと同時に行われたライブコンサートを収録した「新●月LIVE1979」、2005年には、未発表曲、幻のセカンドアルバムの新録音、前身バンドHAL、Serenade、劇団インカ帝国の提供曲や個々の活動の音源、79年当時のプロモーションビデオと2005年のリハーサル風景のDVDを収録した6枚組のボックスセット「新●月●全●史」を発表します。

2006年4月8日、9日には、原宿クエストホールで、復活コンサートを開催し、四半世紀の時を経て、なおゆるぎない、いや当時以上の圧倒的な演奏力で新旧ファンの心をとらえました。
再結成を果たした新月の、これからの新たな活動にファンは期待に胸を膨らませますが、新月は沈黙に入ります。

再結成ライブの翌年、公式サイトに「新月一同」から次の記事が発表されました。

(新月公式サイトより転載)
「新月一同:
復活コンサートから早くも1年半が過ぎようとしています。
なかなか具体的な活動をお知らせするには至っておりませんが、少しずつ継続的な活動につながるよう動き始めています。

さてこの度、今後の活動についての取り組み方に、従来とは異なる取り組み方にメンバーの総意を持って変更することになりましたので、ここにお知らせを致します。

そもそもは、継続的な活動に向け定期的なミーティングを重ねる中、ヴォーカルの北山よりパーマネントな活動が難しい旨の申し入れがあり、その後何度かメンバー全員で話し合いを重ね、本日お伝えする内容に意思決定をした次第です。

結論的には、北山を除く4人のメンバーで従来通り新月の活動を継続致します。

バンドとしては4人のメンバーを中心に楽曲、つまり作品を中心としたバンドであることをコンセプトとします。
そしてヴォーカリストについては、特にパーマネントなメンバーではなく、あくまでも作品の魅力を最大限に表現してくれるヴォーカリストに参加を要請する形を取って行きたいと考えています。
従って1回のライブで複数のヴォーカリストが参加するパフォーマンスも有り得るということです。
また、上述の趣旨から我こそはと申し出を頂くケースでも、柔軟に受け入れて行こうと考えています。

引き続き、美しいメロディーと新月ならではの言葉、ライブにおいては演奏力重視のパフォーマンス、レコーディングにおいては質の高い作品作りを目指し、これからも取り組んで行きたいと考えております。

今後ともご理解ご支援の程宜しくお願い致します。

(18/Oct/2007)」

この後、公式サイトに少しづつ活動の経過がアナウンスされていました。そしてこの発表の後のち6年経った2013年1月1日、ついに新月の演奏活動再開が公式発表がされます。 2007年の告知通り複数のボーカリストを迎え、プロジェクトとしての活動第一弾。 これが今回の「新●月プロジェクトvol.1『あの音が聞こえる』@吉祥寺CLUBSEATA」のコンサートです。

(敬称略)(新●月公式サイトより転載)
出演 : 新●月(花本彰/津田治彦/鈴木清生/高橋直哉)
五十嵐"angie."久勝(vocal)/A.m.u.(vocal)/磯江俊道(kbs.)/安谷屋直之(guitar)

コンサート以前にアナウンスされていましたが、今回のコンサートは映像による演出はないとの事でした。
MC等ほとんど覚えておらず、いつも通り音楽的な事を書くことは出来ませんので、それはちゃんと機材や音楽が解る方々の筆にお任せして、自分なりに、せめて会場の雰囲気を伝えられればと思います。
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今回のコンサートはホールではなくライブハウスです。椅子席と立見席との事で、整理番号順に従って地下の会場に入ると、パイプ椅子席が前方と、後方壁際の二か所に設置され後ろの席は関係者席のようでした。中央部が立ち見のスペースになっていました。
公式サイトで事前に新曲、旧曲の両方が演奏されます、とアナウンスされていましたが、ファンの間で前半新曲、後半旧曲の二部構成なのか、それとも新曲旧曲が交互に演奏されるのかどちらだろうと話題になっていました。

2006年の復活コンサートで演奏された「新●月●全●史」収録曲の新曲『生と死』は演奏されるのか、新曲は果たしてどんな曲なのか、旧曲は一体どの曲が演奏されるのか。
何より北山真さんの「針の穴に糸を通すような」ボーカルが抜けた新月で、違うボーカリストが旧曲をどのように表現するのか、期待と不安が高まります。

ステージは正面から見て左側手前に高橋さんの綺麗なドラムセット、その奥に鈴木さんのベース、正面手前に津田さんのギター、津田さんの右隣にゲスト安谷屋さんのギター、その手前にゲスト磯江さんのキーボード、右手前に花本さんのキーボードが積まれ、白のメロトロンは一番右に置かれていました。ボーカル位置は左側がアンジーさん、右側がA.m.u.さんです。

今回は新月オリジナルメンバー4名、ゲスト4名の演奏とあり、ゲストの方それぞれのファンの方がお目当てのアーティストの方がより見えるような位置を楽しそうに選んで座っていました。

開演時間を数分過ぎて、まずは花本さんが1人でにこにこと登場し、客席に向かい深々と一礼しました。
エレピの前に座ると、あの花本さん独特の前のめりの演奏スタイルで静かに、エレピが奏でられました。オープニング曲1 『鬼のテーマによる変奏曲』(ピアノ・ソロ)です。

そして1人目のゲストボーカルA.m.u.さんが登場しました。
牡丹のような薔薇のような綺麗な花がプリントされた一見着物の紗のように見える淡い白地のオーガンジーの美しい衣裳に素足で佇むA.m.u.さんはふわりとした空気を纏った方でした。
「『牡丹』という曲です」と花本さんから紹介があり、静かにピアノの演奏が始まりました。甘い、でもどこか物悲しいような柔らかなメロディに、A.m.u.さんが囁くように歌います。
張りつめた空気の中、演奏が終わると花本さんが「ここまでが新月の前座です」と笑いました。
そして新月メンバー、ゲストミュージシャンが登場し、それぞれの楽器を手にし、全員がスタンバイするとたちまち活気づくステージと客席。ロックコンサートが始まるわくわく感が会場内を覆いました。
バンド演奏で次に演奏されるのは新曲?旧曲?

ここで花本さんが次に演奏する曲名を聞いて誰もが驚いたと思います。
「次は『不意の旅立ち』です。」
新月の三大大曲の一つがいきなり最初に演奏されるとは、まさに不意打ちです。

この曲は曲が始まる前の寸劇とセットで一つの曲だと思っていたのですが、今回その寸劇はなく、タケシが海へ向かっていく心情は演奏と歌詩に委ねられます。
いきなりタケシはいつもの8時ごろ家を出て学校へ行かずに海に向かいます。
ゆっくりとしたタケシの歩みから急転直下の運命の変化は、表面は穏やかにしかし青の底に潜む黒く激しいうねりのごとく新月プロジェクトメンバーの演奏がタケシを急激に呑み込んだ海中へタケシ同様客席をも渦の中へとねじりこみ叩きこみます。

7年ぶりのバンド新月の演奏に思わず詰めていた息をほっとついたところで、続いて紹介された曲名にさらに驚きます。
「次は『せめて今宵は』です。いつもなら最後に演奏する曲なのですが、今日は先に演奏します」というようなMCでした

花本さんが福生のハウスの中で深夜、小さなアップライトピアノを前にちょっとずつ丁寧に作っていったという名作『せめて今宵は』。
この曲がアレンジを加えられ演奏されるのを聴きながら、今日は新月のプロジェクトのライブなんだ、という事をあらためて実感しました。『せめて今宵は』はA.m.u.さんに一番しっくりと合っていたように思います。
そして再び「新曲で『再会』という曲です」ここまでの新曲は特に花本さんの繊細な世界が特に色濃く出ていたと思います。

A.m.u.さんが一度退場し、そして、アンジーさんが登場しました。
当時衣裳は北山さん以外ドレスダウンをコンセプトにしていた新月メンバーと対局に、ビジュアル系だったノベラの華やかな雰囲気そのままに金色ぽいハットにベスト姿のアンジーさんのオーラは全身から華やかな矢を放っていました。

新月メンバーと「当時新月は先輩で」、とアンジーさんが言うと、すかさず「でもアンジーさんの方が年上ですよね」などいうやりとりがありました。
「この曲は、80年代に劇の為に書いた曲に詩をつけたものです」と花本さんから紹介があり『それからの日々』が始まりました。

不思議な事にまるでアンジーさんのために初めからあった曲のように自然に聴こえました。80年代に作られた楽曲なのでアンジーさんと自然に寄り添うように共鳴し化学反応を起こしたたのだと感じました。素晴らしかったです。

そして「次も新曲で『斧』という怖いタイトルがついています」と花本さんの紹介があり演奏が始まりました。どこかで聴いたような、でもどこで聴いたっけ、ああそうだ、これは知らない曲だけれど、新月だ。そう感じました。

そして次は「『雨上がりの昼下がり』」です。
アンジーさんによって旧曲が歌われるんだと、期待と緊張が高まります。新月ファンにはなじみのある新月曲の演奏、でもボーカルはノベラのアンジーさん、という共演が実現しました。
北山さんを謙虚にリスペクトされるアンジーさんのお人柄に感銘しつつ、そこで独自の世界を作り出すアンジーさんの『雨上がりの昼下がり』は、これがプロジェクトの醍醐味と感じさせた、アンジーさんの実力を見た思いでした。

ここで再びA.m.u.さんが登場し、二人のボーカリストがステージに居る、という事は次の曲はもしかして。
「次は『白唇』です。」やっぱり。
花本さんのメロトロンを食い入るように見てしまいました。やはりつい旧曲の演奏にはどんどん入り込んでしまいます。

次の曲は、これも新月三大大曲『殺意への船出』です。
『殺意への船出PART1』は、新月の前身バンドSerenadeのさらに前身バンド、1972、3年頃、花本さんと北山さんが結成したOutofContorol時代の曲で花本北山コンビの最古の曲です。

『殺意への船出』は、未だ未完成の壮大な組曲です。
Serenade時代の『殺意への船出PART1』はアップテンポでボーカルはシャウトしていますが、新月の新録音「遠き星より」では静かに語りかけるような曲調となっています。

歌詩についてですが、新月ボックス「新●月●全●史」のブックレットに掲載されているOutofContorol時代の歌詩は、作者の北山さんによると誤りを犯しているそうです。殺意への旅の始まりの段階ではナイフは錆びていてはいけなかった、という事にボックス発表後気付いたとか。
そのため、新録音版と、2006年に行われた新●月復活コンサート「『遠き星より』〜遠い星で待つ君のために歌う」ではこの部分を「傷ついたナイフ」と歌い替え回避したそうですが、まだ納得のいく歌詩ではないそうです。歌詩ひとつとっても、この大曲はまだまだ成長・発展していく曲です。

前置きが長くなりましたが、ステージには花本さん、津田さん、A.m.u.さんの三人だけになりました。花本さんのピアノと津田さんのギターは、聴こえるのは波の音のみ、見えるのは月の明かりと星の瞬きのみ、というひそやかな静寂と漆黒の光景を紡ぎだします。

静かな余韻を残しながらPART1の演奏が終わり、再びアンジーさん、他のメンバー全員がステージに登場します。

いよいよ『殺意への船出PART2』です。この曲も古くSerenade時代からの曲で、Serenadeの演奏では星男を高津さん、王女を北山さんで歌っています。新月では北山さん1人が歌いわけています。当時から大変人気の高い曲で、ファンにとっては聞き飽きない曲、新月にとっては演奏し飽きない曲、だったそうです。

花本さんが奏でるストリングスのイントロが流れてくるのを緊張しながら全身で待っていると、それは良い意味で裏切られました。

まず流れてきたのは、急旋回しながら空へと上昇していくプロペラの音のような、あるいは海底から海上へ浮上するスクリューのような回転音で、この音が会場中に鳴り響き、オーディエンスも共に旅へと無意識のうちに同行している事を感じます。

そしてキーボードからあのイントロが響き渡り津田さんのギターが奏でられ、壮大な旅が始まりました。新月メンバーの演奏を磯江さんのキーボードが、安谷屋さんのギターが編むように支えるようにサポートしていきます。

意外だったのは、アンジーさん、A.m.u.さんのゲストボーカリストお二人がステージに立ったので、てっきりアンジーさんが星男、A.m.u.さんが王女で、歌いあうと思っていたのですが、メインがA.m.u.さんでアンジーさんがコーラスで参加されていました。

息をもつかせぬこの大曲に呑み込まれた後にも関わらず続けて会場に鳴り響いてきたのは、あのお寺の鐘の音。
『鬼』です。
この曲のボーカルもA.m.u.さんでした。津田さんのギターが最も印象に残った演奏でした。
アンジーさんがA.m.uさんに「我々が一番大変ですよね?」と語りかけたMCに会場から笑いが起きましたが、本当に大変だったと思います。 ゲストのお二人は、謙虚に北山さんをリスペクトされながら、独自の世界を表現されていました。
個人的にはアンジーさんが『鬼』を歌って良い意味で「壊し」て新しい『鬼』が出現するのかなと想像していました。

ここでみなさん一斉に楽屋へと戻り会場からはアンコールの拍手が鳴ります。
アンコールに応えて花本さんがまず登場します。
キーボードに座るといきなり曲を弾き始めました。あ、『薔薇(仮)』だと思った瞬間花本さんが演奏を止め「すみません、ちょっとキーを」のような意味の事を言い「これは新曲のようなものです」と説明をしてから再び演奏が始まりました。
ボーカルはA.m.u.さんです。明るくかわいらしい印象の曲で一時期デモを聴くことが出来た曲で、個人的に大好きな曲ですが、いつか原曲を聴きたいと思っていました。
以前津田さんが新月のクォリティではないが、花本ソロには良いのでは、とコメントされていたのですが、こうして新月で演奏されて嬉しかったです。

いよいよ最後の曲です、とMCがあり、一体どの曲が最後を飾るのだろう、と思っていると、流れてきたのは『島へ帰ろう』でした。
新月曲は花本さんが尾道で作った曲『不意の旅立ち』から始まり、花本さんが一番お好きな曲『島へ帰ろう』で、締めくくられ、新月プロジェクト第一弾は花本さんのカラーで進められ、2時間をゆうに超えるコンサートはこうして潮の香りを余韻に残しながら終了しました。

【セットリスト】敬称略(新月公式サイトより転載)
1 『鬼のテーマによる変奏曲』(ピアノ・ソロ)
2 『牡丹』(vo. A.m.u.)
3 『不意の旅立ち』(vo. A.m.u.)
4 『せめて今宵は』(vo. A.m.u.)
5 『再会』(vo. A.m.u.)
6 『それからの日々』(vo. アンジー)
7 『斧』(vo. アンジー)
8 『雨上がりの昼下がり』(vo. アンジー)
9 『白唇』(vo. アンジー/A.m.u.)
10 『殺意への船出PART1』(vo. A.m.u.)
11 『殺意への船出PART2』(vo. アンジー/A.m.u.)
12 『鬼』(vo. A.m.u.)
アンコール
13 『浜百合』(vo. アンジー)
14 『島へ帰ろう』(vo. アンジー/A.m.u.)

公式サイトで「新月オリジナル黒いカクテル『鬼』」が販売されますとアナウンスされていました。確かに黒いカクテル。ファンの方に味見させていただきましたが、コーラにジンプラス謎の黄色い液体がちゅちゅっと数滴混ぜられたそうです。この謎が鬼なのかも?

コンサート前から、しきりに今回のライブは「肩慣らし、リハビリです」と新月は言っていました。そしてライブ後、「今後の活動について「 いろんなアーティストの方と、ひとつのチームとして共に協力しあい、より多彩な表現を目指せればと思っています(新月公式サイトより転載)」との事です。>
「新●月プロジェクトvol.1」ライブ全体の個人的な感想は、まだ絵具を選びながらいろいろな色を混ぜては試し、どんな絵を大きな大きなキャンバス一面に描いていこうかと考えている、新月のアトリエを公開してくれたような気がします。

曲についてですが、ライブ後2曲目『牡丹』がYOU TUBEにアップロードされました。タイトルは『カメリア』に変更になる可能性もあるそうです。
『CAMELLIA』

6曲目の『それからの日々』について花本さんから公式サイトに解説がありました。
「アンジーさんがそのまま生きる曲を、との思いから新曲「それからの日々」は生まれた。
原曲は80年代に如月小春さんのパフォーマンス用に書いたもの。
その曲に今回詩をつけた。
出来たのがライブ一週間前(笑)。
その一ヶ月前に東日本大震災の被災者(大槌町)の方々の話を現地で聞く機会があり、皆さんが異口同音に、あの日の夜は今までに見たことないような、美しい満天の星空が広がっていたとおっしゃっていた。
その光景がこの曲の全てだが、アンジーさんは、それを自分のこととして、素晴らしい歌唱を聞かせてくれた。(新月公式サイトより転載」だそうです。

どおりでライブで初めて聴いた時、アンジーさんのために作られた曲、曲の力とアンジーさんの力が拮抗していたとと感じたわけですね。
このお話に、ふと「新●月●全●史」収録のDVD『せめて今宵は』の映像に使われているレバノンのベイルートの街の灯を思い出しました。

また、わたしが『薔薇(仮)』と書いた曲はタイトルが『浜百合』になりました。

2006年のコンサートは半世紀の沈黙を経て神格化された伝説のバンド新月の復活コンサートでしたが、今回の新月プロジェクトコンサートは、70年代当時の立ち位置に戻り、当時ライブバンドだった、という新月が、さまざまなミュージシャンと共演しさらに大きく多彩は広がりを求め、再びライブバンドとして始動したような気がします。

コンサート中、早くも次のライブについてアナウンスがあり、次回はアンプラグドライブとの事で、また新しい新月の試みが楽しみです。
ベースひとつとっても、ジャズミュージシャンでもある鈴木さんがウッドベースでどのような新月を表現されるのか、わくわくして新月プロジェクトの活動に目が離せません。

プロジェクト第一弾の活動は、実験、検証、可能性、試行、実現への第一回目と感じました。次回でまた新たな新月の側面が見られそうです。新生新月始動!楽しみです。


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